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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)117号 判決

主文

一  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

(一)  控訴人両名は、連帯して被控訴人に対し、金二七万三、〇八〇円及びこれに対する昭和四五年四月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  控訴人片山小夜子のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人、その余を控訴人らの各負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人ら

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

(三)  主位的に、

被控訴人は控訴人片山小夜子に対し、金二三万二、五〇五円およびこれに対する昭和四五年二月一六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

予備的に、

被控訴人は控訴人片山小夜子に対し、金一七万七、九九五円およびこれに対する昭和四五年二月一六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

(五)  仮執行の宣言

二  被控訴人

控訴棄却

第二  当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係

次の点を附加訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、原判決書二枚目裏一〇行目から一一行目にかけて「印刷」とあるのを、「表紙の印刷と製本」とあらためる。

二、同三枚目表四行目「よつて」から同六行目「あるから、」までを、「ところで、控訴人両名は、共同して、東京ニユースタイル学院名下に編物教室の開設、編物教科書の出版・販売等の営業をなすものであるから、」とあらためる。

三、同枚目表八行目中「四月一日」の次に「以降」を加え、同末行と同裏八行目中各「真城小夜子」を各「両名」とあらためる。

四、同四枚目表八行目中「真城小夜子」を「両名」とあらため、同裏末行中、「いること」の次に「及び同学院が出版に関する事業をも営んでいること」を、「認めるが、」の次に「同被告が」を、各加える。

五、同五枚目表四行目中「真城小夜子」を「両名」と、同九行目中「七、一九九〇円」を「七、九九〇円」と各あらためる。

六、同枚目裏六行目中「四二円」を「四五円」と、同七行目中「二一万」を「二六万」と、各あらためる。

七、同七枚目表三行目中「真城小夜子」を「両名」とあらため、同四行目「すべて争う。」の次に、「なお、被控訴人が昭和四三年度不良品三、〇〇〇冊分を次年度に増刷納入すべき約を、その後当事者間で変更した旨の被控訴人の主張は、これを否認する。実際に、控訴人真城こと片山小夜子が昭和四四年度の発注をした際にも、その前提として、被控訴人は訴外協友印刷株式会社から技術指導を受けて、色見本通りの表紙を印刷できるようにした上、右約定の三、〇〇〇冊を納入することを確約したのである。」を加える。

八、同八枚目表二行目中「二一万」を「二六万」と、同七行目中「七、九九九〇円」を「七、九九〇円」と、同一〇行目中「二、五〇〇円」を「二、五〇五円」と、各あらためる。

(証拠関係)(省略)

理由

一  請求原因(1)(2)の事実及び東京ニユースタイル学院が編物教科書等の出版に関する事業をも営んでいること、ならびに控訴人片山小夜子が同学院を経営している者であることは当事者間に争いがない。

二  控訴人季仲秋の原・当審における供述ならびに控訴人片山の当審における供述を総合すると、控訴人季もまた控訴人片山と共同して右学院を経営している者であること及び右学院は法人格を有しないものであることが認められる。

そして、以上の各事実を総合すれば、控訴人両名は、共同して、前記学院の名のもとに、編物教科書等の出版、販売を業として営んでいるものであると認められる。

三  そこで、控訴人らの抗弁兼控訴人片山の反訴請求原因についてみるに、先ず昭和四三年度納品分中に少くとも約三、〇〇〇冊の不良品があり、その問題に関し、初め、被控訴人が次年度の表紙印刷と製本のときに右不良冊数に該当する三〇〇〇冊を別に増刷補充する旨約したことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第一、三号証及び控訴人季の原審における供述ならびに被控訴会社代表者の原・当審における各供述を総合すると、右約定はその後変更されて、次年度すなわち前示争いのない昭和四四年度の編物教科書の表紙印刷及び製本の請負契約締結の際に調整されて、その請負代金を値引きし、もつて前示争いのない請負代金額に決定することによつて、すべて解決済みであることが認められ、乙第三号証や当審証人西村清明の証言も右認定をくつがえすに足るものではない。

次に、昭和四四年度納品分について検討すると、検乙第一号証、成立に争いのない乙第四号証、「教科書不良品返品」なる記載を除いて成立に争いのない乙第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二号証、当審における証人西村清明、同高井智恵子の各証言及び鑑定人野村蔚鑑定の結果ならびに控訴人季の原・当審における供述、控訴人片山の当審における供述、その他前年度納品分について三、〇〇〇冊に及ぶ不良品があつたという前示争いのない事実及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和四四年度分の納品は、五〇冊または二〇冊毎に包装を施して少しづつ何回にも分けて納品され、これを受けとつた控訴人らは、初期に納品の分はこれを地方に発送するにあたりその前に包装をあけて検査し、また比較的おくれて納品された分はこれを納品後間もなく包装をあけて検査し、いずれもその折に不良品のあることを発見し、その都度その不良品を次回納品時に返品したりして適宜の方法で時機を失することなくその不良の事実を被控訴人に通知したが、結局前示争いのない納品冊数のうち、上巻五一六冊、下巻一、一三五冊の不良品が出たこと、右不良品の不良とは、編物教科書の表紙のビニール加工に皺がよつたり、背の部分がねじれたりしていて美麗を尚ぶ編物教科書の性質上そのままでは全く商品にならず、これを通常の方法でやり直すと再断裁を行うため縦・横ともに本の規格寸法より小さくなり、その難点を避けようとすればすべて手直しとなりより多くの費用と日数を要する性質のものであつたこと、他方右編物の教科書には年度の表示はないが各年度毎に印刷されて次年度にまたがつて使用さるべきものでなく、記載内容中の製図等にも一部改訂が施されるものであるから、控訴人は右不良品発見当時から被控訴人に対し「表紙印刷や製本代はさほどでないにしても、その不良のために本全体が駄目になり、控訴人らとして多大の損害を蒙ることになる」旨告げて予め警告を発すると共にその損害の賠償を求める旨の意思を表示していたこと、しかるに、被控訴人は前記不良品存在の事実の通知をうけながら善処する意思がなくこれを放置し、昭和四四年度の年度内地方宛発送を可能ならしめる最終日と考えられる昭和四五年三月三〇日を徒過したこと、そしてそのために控訴人片山が被つた損害は、上巻一冊につき表紙印刷と製本代四三円三八銭(前示争いのない請負代金額を納入冊数合計で除した金額、以下同じ)及びその余の部分の原価一〇〇円以上合計一四三円三八銭、下巻一冊につき表紙印刷と製本代四三円三八銭及びその余の部分の原価一二〇円以上合計一六三円三八銭であり、これに各冊数を乗じて加えると総合計二五万九、四二〇円となること、したがつて控訴人片山は昭和四五年三月末日被控訴人に対し右同額の損害賠償債権を取得したことが各認められ、当審証人水野紀男同野村蔚の各証言ならびに被控訴会社代表者の原・当審における供述中右認定に反する部分は措信できない。

なお、被控訴人は、前記不良品の検査、通知に関し、商法五二六条の適用又は類推適用もしくは準用があるべきであると主張するが、本件の表紙印刷と製本に関する契約は請負契約であるから、右被控訴人の見解を採用することができないのみならず、右認定の事実によれば、控訴人らにおいて、前記不良品につき、瑕疵担保上の権利を失ういわれはない。

ところで、控訴人らは、本訴において、右認定の損害賠償債権をもつて、本訴請求にかかる請負代金債権と対当額で相殺する旨訴訟上の相殺を主張しているから、その結果、相殺適状が生じた昭和四五年三月末日をもつて、本訴請求債権は右相殺により金二七万三、〇八〇円となつたものである。

四  以上のとおりであるから、控訴人両名は、商法五一一条により連帯して、被控訴人に対し、請負代金金二七万三、〇八〇円、及びこれに対するその弁済期の翌日である昭和四五年四月一日から支払ずみまで商事法定利率たる年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、被控訴人の本訴請求はこの限度で理由があり正当であるが、これを超える部分は理由がなく失当である。

また、控訴人片山の反訴請求にかかる損害賠償債権は、前記認定の額をもつて一応発生したのであるが、前記訴訟上の相殺に供された結果全部消滅し、結局理由ないことに帰したものである。

よつて、被控訴人の本訴請求は、前記正当な限度で認容されるべきであるも、その余は棄却されるべきであるところ、原判決はこの点で結論を異にしているので、当裁判所は、これを前記判断のとおり変更すべく、訴訟費用は、反訴を含め第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人、その余を控訴人らの各負担とし、主文のとおり判決する。

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